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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4003号 判決 1965年11月30日

原告 山内工機株式会社

右代表者代表取締役 山内盛隆

原告 高畠皆三

右両名訴訟代理人弁護士 朴宗根

被告 大東京信用組合

右代表者代表理事 森下長平

右訴訟代理人弁護士 河和松雄

<外三名>

被告 平沢博

右訴訟代理人弁護士 野島武吉

右同 野島良男

主文

(一)  被告大東京信用組合は、原告高畠皆三に対し別紙目録第一、二の各(1)記載の各登記の、原告山内工機株式会社に対し同目録第一、二の各(2)乃至(4)記載の各登記のそれぞれ抹消登記手続をせよ。

(二)  被告平沢博は、原告高畠皆三に対し同目録第三の(1)記載の各附記登記の、原告山内工機株式会社に対し、同目録第三の(2)乃至(4)記載の各附記登記のそれぞれ抹消登記手続をせよ。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文(一)及び(二)同旨の判決を求め、請求の原因を次のとおり述べた。

一、原告会社(当時の商号朝日工機株式会社、昭和三九年四月二日現商号に変更)は、同三四年一〇月一五日被告組合との間に手形割引、手形貸付、証書貸付等の契約を結び、右契約に基いて発生する被告組合の債権を担保するため、原告高畠所有の宅地及び原告会社所有の建物について、(一)同三五年一〇月三日それぞれ債権元本極度額六五〇万円の根抵当権を設定し、かつ期日に債務を弁済しないときはその弁済に代えて宅地、建物の所有権を被告組合に移転する旨の各契約を結び、被告組合のために、原告高畠は別紙目録第一(1)の(イ)、(ロ)の登記を、原告会社は同目録第一(2)乃至(4)の各(イ)、(ロ)の登記を経由し、さらに(二)同年一〇月三一日それぞれ債権元本極度額五五〇万円の根抵当権を設定し、かつ期日に債務を弁済しないときはその弁済に代えて宅地、建物の所有権を被告組合に移転する旨の各契約を結び、被告組合のために、原告高畠は同目録第二(1)の(イ)、(ロ)の登記を、原告会社は同目録第二(2)乃至(4)の各(イ)、(ロ)の登記を経由した。

二、その後被告組合は昭和三九年四月一〇日訴外倉田靖平に対し、前項の契約に基き被告組合が原告会社に対して有するに至った確定債権金一四、四四九、二四六円をその担保のための根抵当権、停止条件付代物弁済契約上の権利とともに譲渡し、原告らは右債権譲渡を異議を留めず承諾した。そこで、原告会社は倉田に対し、同年四月一〇日より同年一二月一日までの間に二十数回に亘り、右譲渡債権全額の支払を了し、ここに前項記載の各登記は抹消されるべきものになった。

三、ところが、昭和四〇年三月二九日、被告組合から被告平沢に第一項記載の根抵当権、所有権移転請求権がいずれも譲渡されたとして別紙目録第三記載のように抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記について、それぞれ移転の附記登記が経由されている。

四、よって、原告高畠は宅地の、原告会社は建物の各所有権に基いて、実体上の権利を伴わない被告組合のための別紙目録第一、二記載の各登記と、被告平沢のための同第三記載の各登記との、抹消登記手続を求める。

被告組合訴訟代理人は、「原告らの請求はすべてこれを棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因事実中、同第二項のうち原告会社が倉田靖平に対し、原告ら主張の頃、その主張の金額を支払ったこと及び同第三項は知らないが、その余は認める。

と述べた。

被告平沢訴訟代理人は、「原告らの請求はすべてこれを棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因事実中、同第二項のうち原告会社が倉田靖平に対し、原告ら主張の頃、その主張の金額を支払ったことは知らないが、その余は認める。

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一、請求原因第一項の事実及び同項記載の契約に基いて被告組合が訴外倉田靖平に対し、昭和三九年四月一〇日被告組合の原告会社に対して有するに至った確定債権金一四、四四九、二四六円をその担保のための根抵当権、停止条件付代物弁済契約上の権利とともに譲渡し、原告らが右債権譲渡を異議を留めず承諾したことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、≪証拠省略≫を綜合すれば、原告会社は倉田に対して、同日から同年一二月一日まで二十数回に亘って叙上金一四、四四九、二四六円の支払を了したことが認められ、その反証はない。

そうすると、請求原因第一項記載の各登記、すなわち別紙目録第一、二の各(1)乃至(4)の根抵当権設定登記、停止条件付代物弁済契約を登記原因とする所有権移転請求権保全仮登記は、いずれも実体上の原因を欠き無効のものになったと云うべきである。(なお、本件根抵当権によって担保される債権が、前記のように確定したものになったことにより、登記上の根抵当権は既に実体上普通抵当権に化していると云わねばならない。)

二、しかるに、昭和四〇年三月二九日に被告組合から被告平沢のために前記根抵当権、所有権移転請求権が譲渡されたとして別紙目録第三記載のように設定登記、仮登記の各移転附記登記の経由されていることは、原告と被告平沢との間において争いがないところであるが、もはや抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記が無効に帰していたこと前叙のとおりであるから、その後なされた右附記登記もまた実質を伴わない無効のものと云わなければならない。

三、ところで、甲のために制限物権の設定登記、あるいは所有権移転請求権保全仮登記がなされたのち、甲から乙に右制限物権、あるいは請求権が譲渡されてその旨の移転の附記登記を経た状態において、乙に対して被担保債務が弁済され、乙のための制限物権あるいは請求権が消滅した場合には、最後の登記名義人である乙の有する制限物権、請求権そのものがなくなるわけであるから右乙のみを相手方としてこれら登記そのもの(設定登記、仮登記及びその各移転附記登記)の抹消請求をなし得ると解することができるとしても(大審院明治四一年三月一七日、同昭和一三年八月一七日各判決参照)、本件の如く未だ甲(被告組合)のために抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記がなされている状態において被担保債務が弁済され、これら登記がもはや抹消されるべきものになってからのちに、さらに乙(被告平沢)のために抵当権及び所有権移転請求権の譲渡による附記登記がなされたような場合には、甲及び乙がそれぞれ消極的な権利変動に応じて独自の抹消登記義務を負担し、従って、甲のための抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記義務は甲が、乙のための抵当権、所有権移転請求権の譲渡による移転附記登記の抹消登記義務は乙が、それぞれ負うと解するのが相当である。

よって、原告高畠が宅地所有権に基いて、被告組合のための別紙目録第一、二の各(1)記載の登記と、被告平沢のための同第三の(1)記載の附記登記とのそれぞれ抹消登記手続を求め、原告会社が建物所有権に基いて、被告組合のための同第一、二の各(二)乃至(4)記載の各登記と、被告平沢のための同第三の(2)乃至(4)記載の各附記登記とのそれぞれ抹消登記手続を求める本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田四郎)

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